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匿名での特許庁への情報提供

特許権は申請(出願)を行っただけでは発生せず、さらに特許庁に審査を請求し、実際に審査が行われ、それにパスして登録された場合にのみ発生します。

出願内容は1年6か月後に公開されるので、特許権発生前に「このまま特許権が成立したらまずいな」と思うような他者の出願を見つけることがあります。

特許権が発生すると、自分の商品やサービスの提供を続けられなくなってしまうような場合ですね。

また特許権の発生後に「まずい特許が成立したたな」ということもあります。

このような場合には、特許権の成立を妨げたり、成立した特許権を取消・無効にできないかと考えるわけですが、実際に何らかのアクションを起こしてしまうと、「この特許に引っかかる会社がいるようだな」ということが先方に知られてしまいます。

自分で特許権侵害の疑いがあるから、費用をかけてまでアクションを起こしている訳で、先方にはバレバレですね。

そんなときには「匿名」で情報提供を行うことが有効です。

情報提供制度

情報提供制度とは、特許を付与すべきではない根拠を示す情報、または、本来は特許されるべきではなかった根拠を示す情報の提出を認める制度です。

誰でもいつでも無料で情報提供を行うことができ、「匿名」での提供も可能です。前者のように特許付与前に提供することもできますし、後者のように特許付与後に提供することもできます。
https://www.jpo.go.jp/system/patent/shinsa/johotekyo/index.html

ただし、情報提供できる情報は以下のように制限されています。


1.特許付与前の情報提供

特許付与前には、以下の①~⑧の根拠となる書類を提供できます。これらは特許の成立を阻止するものです。刊行物や特許出願書類などの書類しか提出できませんが、インターネット上の情報はプリントアウトすれば提出できます。

①発明に新規性がない(特許法29条1項)。

②公知技術から容易に発明できる(同条2項)。

③先に出願された他人の特許出願書類に記載されている(同法29条の2)。

④先の特許出願で権利請求された発明と同一の発明を権利請求している(同法39条)。

⑤特許法で定義された発明に該当しない。または産業上利用できる可能性がない(同法29条1項柱書)。

⑥特許出願書類が記載要件を満たさない(同法36条4項、同条6項1~3号)。

⑦出願時に記載されていた事項を超えた補正がされている(同法17条の2第3項)。

⑧外国語出願の翻訳文が原文を超えている(同法36条の2第2項)。


特許付与前に提供された情報は審査で参酌されます。平成25年の調査では、情報提供を受けた案件の73%で、提供された情報が審査に活用されています。かなり高い割合ですね。

これにより、特許の付与を妨げたり、特許権の権利範囲を自社に及ばない程度に限定させたり、といった効果が期待できます。


2.特許付与後に提供できる情報

特許付与後にも上記の①~⑧の根拠となる情報を提供でき、特許付与後にはさらに以下の⑨の根拠となる情報も提出できます。

⑨特許成立後の書類の訂正内容が違法である(同法126条1項ただし書,5~7項、同法120条の5第2項ただし書、134条の2第1項ただし書)

これらの①~⑨は、成立した特許権を取消したり、無効にしたりするためのものです。同様に書類しか提出できませんが、インターネット上の情報はプリントアウトすれば提出できます。

ただし、特許付与前に情報提供する場合と異なり、特許付与後の場合には情報提供があったからといって、それだけで特許の有効性が再評価されるわけではありません。

特許庁が特許の有効性の再評価を行うのは、それとは別に特許異議申し立てや特許無効審判といったアクションが起こされた場合のみです。

これらのアクションがあった場合、その審理の過程で情報提供内容が職権で参酌されます。

特許異議申し立てや特許無効審判を匿名で行うことはできないので、他者によるアクションを待つか、他者にアクションを起こしてもらうしかないのが難点です。

匿名で情報提供するのであれば、特許付与前の方が有効ですね。

 

このように、情報提供制度を利用することで、自社にとって不利な特許を排除したり、権利範囲を限定させて自社に効力が及ばない権利に代えてしまうことが期待できます。

一方で情報提供が多いということは、その存在を消したいと思う人も多いということ。それはつまり、情報提供が多いほど価値が高い特許と言えるかもしれません。

情報提供数から、その発明に対する社会的な注目度や資産的な価値を推し量ることもできそうですね。

今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。


弁理士 中村幸雄


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