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国の安全に脅威をもたらす発明の海外流出

日本の特許法では、特許出願日から1年6月経過後に出願内容が公開され(特許法64条1項)、その内容は世界中どこでもインターネットで閲覧可能となります。

このように公開される発明の中には、ウラン濃縮やプルトニウム抽出といった核兵器に転用可能なものも含まれますが、何の制約もなく公開されると北朝鮮などで軍事利用されてしまうのではないか・・・という心配もありますよね。

しかし日本の特許法には、核兵器に転用可能な技術の公開を直接的に制限する規定は存在しません。

日本で公開が制限されるのは「特許公報に掲載することが公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあると特許庁長官が認めるとき」ですが(同条2項但し書き)、この基準は結構緩く、その可能性があるだけの発明は公開されてしまいます。

例えば、核兵器に転用可能な発明であったとしても、将来的に有用な別の利用方法が想定できるのであれば、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあるとは認められず、出願内容は公開されてしまいます。

どんな発明でも技術進歩によって産業の発達に役立つ可能性があるのであれば、公開して次の時代につなげるという考え方ですね。特許法は産業の発達を目的としたものですからこのような考え方になります。

特許法以外で特許出願された内容の公開を制限する規定としては、「防衛目的のためにする特許権及び技術上の知識の交流を容易にするための日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の協定(日米技術協定)」という二国間条約があります。

これは日本と米国との間で締結された軍事関連特許の秘密保持に関する条約で、一方の国で秘密保持されている発明が他方の国で公開されることを禁止するものです(日米技術協定3条)。

しかし、日本の特許法では防衛目的で発明を秘密にする規定は存在しないので、そのような規定を有する米国で公開が禁止された発明の日本での公開を禁ずる一方的な効果しかありません。

このように、日本では特許出願された発明の公開を防衛目的で明に制約する規定は存在しません。

一方、米国、カナダ、ドイツ、イタリア、中国、韓国などのほとんどの先進国では、軍事転用可能な発明に対してなんらかの制約を設けています。

米国の場合、米国内で行われた発明は、原則として最初に米国で特許出願を行わなければならず(米国特許法第184条)、そこで国家の安全を害するおそれがある発明であると認められた場合には、秘密保持命令が出され、出願の公開および特許の付与が留保されます(同法181条)。秘密保持命令に違反して発明者等が発明を公開すると、その発明を放棄したとみなされ(同法182条)、それが故意であった場合には刑事罰も科せられます(同法186条)。

ドイツの場合も、特許が国家機密の発明であると認定された場合には発明の公開が禁止されます(ドイツ特許法50条)。また、外国への特許出願が禁止され、これに反した場合には刑事罰が科せられます(同法52条)

中国の場合も、中国国内で完成した発明を外国に出願する場合、先ず中国特許庁による秘密保持審査を受ける必要があります(中国特許法20条)。

このように、日本の特許法は国家の安全の脅威となり得る発明の海外流出に対するガードは緩めです。

もともと特許制度は、発明に特許権を付与する代償として、その内容を公開し、改良発明を促すことによって産業を発達させようとする制度。

現行特許法ができた時代にはインターネットなどは存在せず、特許権の効力範囲と発明が公開される範囲との間に乖離は無かったのですが、インターネットの登場でそのバランスが崩れてしまいました。

特許権の付与と公開とは表裏一体なので、公開だけを制約する訳にもいかず、また特許化を制約すると日本の技術競争力の低下につながってしまうというジレンマ。

新型コロナウイルス感染拡大下でも、核開発の再開を示唆したり、頻繁にミサイル発射を繰り返したりしている北朝鮮や、この機に乗じて軍事挑発を繰り返している中国など、国防上の問題とのバランスをどのようにとっていくか、今後の課題の一つかもしれません。

 

今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。

弁理士 中村幸雄


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