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新型コロナウイルスの感染拡大は放送関係者や芸能人にもおよび、最近、志村けんさんや岡江久美子さんの訃報も伝えられました。社会的にはインパクトの大きな出来事だったのではないでしょうか。
そのような中、テレビ局各社のドラマやバラエティ番組は窮地に追い込まれています。
社会全体の不安感から報道や情報系の番組については高視聴率をマークし、キャスター間の立ち位置を広げたり、リモート出演で対応したりと、あの手この手で収録を続けていますが、ドラマやバラエティ番組については収録中止に踏み切らざるを得ない状況が続いています。
新たな収録ができない以上、過去の放送番組の再放送や総集編を放送したりするしかないのですが、番組の質の低下は避けられません。
ただでさえテレビ離れが進んでいる中、子供達の休校が続き、さらには全国的な緊急事態宣言が発令され、人々が自宅で過ごす時間が急増したにもかかわらず、それに対応できないというのはテレビ局にとってつらいところです。
そのような中、需要が伸びているのはAmazonプライム・ビデオなどの動画配信サイト。映画だけでなく過去に放送されたテレビドラマなどもアップロードされ、いつでもどこでも好きなコンテンツを選んで観ることができ、大変便利ですね。
Amazonプライム・ビデオなどで合法的に二次利用されるコンテンツは既に権利処理されたものですが、過去に放送されたテレビドラマの二次利用には権利処理上の大きな問題があります。
映像コンテンツ権利処理機構(略称:aRma[アルマ])という団体をご存知でしょうか。映像コンテンツの二次利用に係る円滑な権利処理を実現するための団体であり、このwebサイトでは、過去に放送されたテレビドラマに出演し、連絡が取れなくなった出演者やその遺族の捜索が行われています。
aRma:放送番組に出演された方々をさがしています
https://www.arma.or.jp/housou.html
「特命係長・只野仁 ファイナル」「交渉人~THE NEGOTIATOR~2」「連続テレビ小説 ゲゲゲの女房」「大河ドラマ 春日局」など、過去に高視聴率を確保したテレビドラマについて捜索件数は3000件以上。かなりの数ですね。
これはテレビドラマを動画配信サイトにアップロードしたりDVD化したりといった「二次利用」の権利処理のため、引退等によって連絡の取れなくなった出演者を捜索しているものです。
著作権法上「テレビドラマ」は「映画の著作物」に分類されます(著作権法2条3項)。またドラマの出演者は「実演家」と呼ばれます(同法2条1項4号)。
実演家には様々な権利が認められているのですが、それらの中でも重要なのが「録音権及び録画権」「放送権及び有線放送権」「放送権及び有線放送権」「送信可能化権」です。
1.録音権及び録画権
実演を録音し、又は録画する権利です(同法91条)。
これにより、コンテンツ業者がテレビドラマをDVD等に録画をして販売する場合、著作権者だけではなく、実演家の許諾も必要となります。
2.放送権及び有線放送権
実演家がその実演を放送し、又は有線放送する権利です(同法92条)。
これにより、放送局がテレビドラマを放送する場合、実演家の許諾も必要となります。
3.送信可能化権
実演家がその実演を送信可能化する権利です。すなわち、動画配信サイトにテレビドラマなどをアップロードする権利です(同法92条の2)。
これにより、コンテンツ配信業者が、テレビドラマをアップロードする場合、著作権者だけではなく、実演家の許諾も必要となります。
4.ワンチャンス主義
「映画の著作物」については、実演家から録音や緑画の許諾を一度受けておけば、原則、実演家から再び許諾を得ることなく、その後に録音や緑画の許諾を受けた実演を再び録音・緑画したり、実演家の許諾を受けて録音や緑画されている実演を放送や有線放送したり、アップロードしたりできます(同法91条2項、92条2項2号、92条の2第2項)。
すなわち、実演家から録音や緑画の許諾を一度受けておけば、原則、その後の二次利用のたびに実演家から許諾を受ける必要はありません(ワンチャンス主義)。「映画の著作物」の二次利用の権利処理を簡易化するための制度です。
ワンチャンス主義により、テレビドラマの放送時に「放送権及び有線放送権」に加えて「録音権及び録画権」についても許諾を受けていれば、原則、二次利用時に再許諾を得る必要はありません。
しかしながら、現実問題としてテレビドラマではワンチャン主義の制度はうまく活用されていないようです。
テレビドラマの放送時点では、その視聴率がどうなるか、将来的に二次利用がなされるかは不明であり、できるだけ早期に安く番組制作を行う必要があります。
そのため、どうしても最初の放送または有線放送という一次利用に重点が置かれ、放送権または有線放送権の権利処理は行われていても、二次利用を考慮した録音権及び録画権の権利処理は行われていないことが多いようです。このような場合、いざ二次利用をしようというときに実演家との再契約が必要となります。
近年はテレビ番組が放送直後に合法的に動画配信されることもあるため、番組制作時に二次利用を考慮した権利処理が行われている場合もありますが、それ以前の古い番組ではワンチャン主義を活用できないケースが非常に多いと聞きます。
しかし、多数の実演家との再契約は困難であり、実演家のリストが存在しなかったり、そもそも出演者が不明だったりと、このような古いテレビドラマの二次利用は極めて困難な状況。
そのような円滑なテレビドラマの二次利用を図るため、引退等によって連絡が取れなくなった出演者(実演家)の捜索が必要になるわけです。
このようにテレビドラマでは、これまでワンチャン主義がうまく機能していませんでした。YouTubeなどでのテレビドラマの違法アップロードが問題視されていますが、そもそも適法に過去のテレビドラマを配信すること自体困難な状況にあります。
今回の新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけとして、テレビドラマの適正な二次利用を容易にする枠組みがさらに必要となってくるのではないでしょうか。
今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。
弁理士 中村幸雄