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医療行為や医薬品・医療機器の特許性

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、世界中で新型コロナウイルスに対するワクチン、治療薬、診断方法、治療方法、医療機器の研究開発が急ピッチで進められています。

新型コロナウイルスの感染拡大を終決させるのはワクチンであり、治療薬、診断方法、治療方法、医療機器は感染終決まで継続的に必要とされるもの。

これらの研究開発で生まれた発明の中には特許出願されるものもあり、特許出願された発明は特許庁で審査され、特許可能となれば登録によって特許権が発生します。

特許権は第三者がその特許発明を事業として実施することを禁ずる排他権ですので、特許権者がその特許発明に基づく利益を独占することも可能です。

もちろん企業は営利活動を行っているわけですから、投資に見合うだけの利益を期待することは当然ですね。特許制度があるからこそ資金を投じて円滑に研究開発を行うことができ、結果的に、社会全体も恩恵を受けることができます。

一方、新型コロナウイルス感染症は人類全体の生命にかかわる問題であり、そのような感染症に有効な発明を特定の企業に独占させる問題も想定できます。

少なくとも、救える命があるにもかかわらず、特許権があるため救えなかったということは避けるべきでしょう。

このような点を考慮し、日本では「人に対する医療行為(診断、治療、手術する行為)」は特許の対象から除外されています(特許法29条1項柱書)。

例えば、新型コロナウイルスに感染しているか否かを診断する方法、患者への人工呼吸器の装着方法、患者への治療方法などには特許権は付与されません。

同様な理由から、昭和50年改正の前までは、ワクチンや治療薬などの医薬品も特許の対象から除外されていました。しかし現在では、医薬品や医療機器は特許の対象となっています。

人間の健康や生命にかかわる技術を広く公開すべきという考えからすると、医薬品や医療機器と、医療行為とでは違いが無いような気がします。

それにもかかわらず、医療行為のみに特許権を付与しないのはなぜでしょうか。

これに明確な理由付けを行っているのが「平成12年(行ケ) 65号 審決取消請求事件(東京高裁)」です。簡単に整理すると以下のようになります。


①医薬品や医療機器の場合

医薬品や医療機器に特許権が存在しても、医療機関がその医薬品や医療機器を正規に購入した時点で特許権の問題はクリアになっています。

つまり、医療機関がその医薬品や医療機器を正規に購入できたのは、特許権者やライセンスを受けた会社がその医薬品や医療機器を正規販売したからです。

この場合、特許権の効力は正規販売された時点で消尽されており、権利者は正規販売後の医薬品や医療機器にもう一度特許権を行使することはできません。

そのため、医師などの医療従事者がその医薬品や医療機器を使用して医療行為を行う時点で特許権侵害を心配する必要はなく、一刻を争う医療現場で自らの能力を最大限発揮することができます。

また正規購入された医薬品であったとしても、2以上の医薬品を混合する調剤方法に特許権が存在すれば、その調剤時点で特許権侵害となってしまうようにも思えます。

しかし日本の特許法では、そのような調剤行為を「特許権の効力が及ばない範囲」として規定しています(特許法69条3項)。

つまり、2以上の医薬品を混合する調剤方法に特許権を与える場合はあっても、医師や薬剤師がその調剤方法を用いても特許権を侵害しないという構成になっています。

このように、調剤行為時点でも医師や薬剤師が特許権侵害の心配をしなくてもよいように工夫されています。


②医療行為の場合

医療行為に特許権が付与された場合、医療従事者が医療行為を行う時点で特許権侵害の有無が問題となってしまいます。

このような状況では、医療従事者は特許権侵害を恐れて最善の医療行為を行うことができない等、医療行為時点で最大限の能力を発揮できなくなってしまいます。

これでは、本来救うことのできる患者の生命を、特許権が障害となって救えなかったという事態を生みかねません。

このような理由から、日本の特許法では医療行為を特許の対象から除外しています。


このように日本の特許法では、企業による研究開発が積極的に行われ、産業全体の発達に寄与するよう制度設計されるとともに、一刻を争う医療現場での医療行為が特許権で妨げられないよう考慮されています。

新型コロナウイルス感染症の終決には大分かかりそうですが、世界中の医療現場や医療研究機関がこの問題に全力で取り組んでいます。

まずは現状を受け入れ、我々一人一人が自分にできることを行って、人類共通の敵に取り組んでいきましょう。


今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。

弁理士 中村幸雄


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