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世界中で猛威を振るう新型コロナウイルス。東京都内でも感染者が加速度的に増加していますね。
感染者の爆発を抑え、医療崩壊による死者を出さないためにも感染者数のピークを抑え込むことは避けては通れない道。
ただ、新型コロナウイルスはインフルエンザ並みに感染力が強く、かつ日本では個人のプライバシーへの配慮の問題などもあって感染を完全に封じ込めるのは困難。感染者をゼロにすることはおそらくできないでしょう。
このような状況で感染者数のピークを抑え込んだ場合、国民が集団免疫を獲得するまでの期間が非常に長くなり、長い期間に渡って制限された状況を強いられることになります。その経済的・文化的影響は計り知れません。
この状況を早期に終わらせるのがワクチンや治療薬。現在、別の伝染病のための既存のワクチンや治療薬の転用ができないかというアプローチと、新型コロナウイルス用の新薬開発の両方のアプローチが並行して進められています。
結局のところ今の状況が終決するのは、効果のある十分な量のワクチンや治療薬が適正価格で流通するようになってからではないでしょうか。
ここで気になるのがワクチンや治療薬の特許権。
一般に新薬開発の際には製薬や製法について特許出願が行われ、特許庁で審査通過となれば、設定登録によって特許権が発生します。
また、別の伝染病のための既存のワクチンや治療薬が新型コロナウイルスにも効果があると分かれば、その新たな用途を「用途発明」として特許出願し、同様に審査を経て特許化することも可能です。
さらに、既存のワクチンや治療薬には特許権が成立しており、権利が消滅していない限り、その特許権も存在しています。
このような特許権の所有者が他社のワクチンや治療薬の開発に対して権利行使したり、十分な量のワクチンや治療薬を供給しなかったり、法外な価格で販売したらどうでしょう?
人命にかかわることですから公益的に許されないことではないことは明らかですね。
特許法にはこのような弊害を防ぐための規定が存在します。
まず、特許法69条では、試験又は研究のためにする特許発明の実施には特許権の効力は及ばないと規定されています。
通常、特許権が存在する医薬の生産・使用・譲渡などを事業で実施するには権利者の許諾が必要ですが、試験又は研究のための実施であれば許諾は不要です。
つまり、既存のワクチンや治療薬が新型コロナウイルスに効くかどうかの試験又は研究には特許権の効力は及ばず、この特許権によって試験又は研究が妨げられることはありません。
次に、特許法93条には、特許発明の実施が公共の利益のため特に必要であるときは、実施希望者がライセンスの許諾について協議を求めることができ、それがうまくいかなかったときに経済産業大臣の裁定を請求できることが規定されています。
この「公共の利益のため特に必要なとき」とは、国民生活に直接関係する公共的産業部門に属し、当該発明を緊急かつ広く実施する必要性が高い場合と解釈されており、新型コロナウイルスのワクチンや治療薬の実施はこの状況に当てはまると思います。
この経済産業大臣の裁定がなされれば、その内容に従って強制的にライセンス(通常実施権)が設定され、十分な量のワクチンや治療薬を適正価格で提供することが可能になります。
実際には裁定制度が使われることにはないと思いますが、伝家の宝刀的にこの制度が存在することで濫用行為を未然に防いでいるといえるかもしれません。
以上、今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。
弁理士 中村幸雄