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改正意匠法で建築物のデザインの意匠権を取得する意義

来月4月1日から改正意匠法が施行されます。

意匠法は知的財産に関する法律の一つであり、工業デザインの保護を目的としたものです。

従来の意匠法は、主に工業過程で量産される「動産」である「物品」のデザインを保護対象とし、原則、量産に適さない「不動産」である建築物の外観・内装のデザインを保護していませんでした。

一方、改正意匠法では、これまで意匠法では保護されなかった建築物の外観・内装のデザインにまで保護対象が拡張されています。

この改正は建築物のデザイン保護に有効なものですが、これまでの建築物のデザイン保護にどのようなハードルがあったのか知ることで、建築物のデザインについて意匠権を取得する意義が見えてきます。

 

不正競争防止法によるアプローチ

例えば、平成28年のコメダ珈琲事件(平成28年12月19日 東京地裁判決)では、不正競争防止法に基づいて、店舗外観(店舗の外装,店内構造及び内装)、商品(飲食物)と容器(食器)の組合せによる表示の使用差止の仮処分が認められました。

この事件は一般紙などでも取り上げられ、かなり話題になりましたが、日本において不正競争防止法に基づいて店舗外観の使用差止が容認されたのはこのケースが初めて。

それ以前にも店舗外観の使用に対して不正競争防止法に基づく差止等を求めた事例はいくつかありますが、裁判所はいずれの請求も棄却しています(まいどおおきにめしや事件:平成19年12月4日 大阪高裁判決など)。

また不正競争防止法は、意匠権のように権利を付与して権利侵害の有無を争点とする権利付与法と異なり、模倣行為に対してどのような点を争点とするかから検討が必要な行為規制法です。

また判断を行う裁判所自体、不正競争防止法に基づく事件を多く扱っている訳ではありません。

これらの事情から、個別具体的な案件において、不正競争防止法に基づいて建築物のデザインの保護を受けられるか否の予見性はかなり低いといえます。

 

著作権法によるアプローチ

別のアプローチとして、著作権法によって建築物のデザイン保護を求めた事例も存在します。

建築物も著作権による保護対象となり得、著作権法10条1項5号には著作物の例として「建築の著作物」が挙げられています。

ただ、どのような建築物も著作権で保護されるわけではなく、他の著作物と同様、建築物の著作物も著作権上の「著作物」である必要があります。

すなわち、建築物の外観・内装のデザインが「思想又は感情を創作的に表現したもの」でなければ、著作権法に基づく保護を受けることができません。

建築物が著作権法上の「著作物」であるかが示された裁判例として「積水ハウス高級注文住宅グルニエ・ダイン事件(平成16年9月29日 大阪高裁判決)があります。

この事件は、積水ハウスがサンワホームに対し、サンワホームのモデルハウスが積水ハウスの注文住宅の著作権を侵害するとして、サンワホームのモデルハウスの建築差止等を求めたものでした。

(1)積水ハウスの注文住宅

(2)サンワホームのモデルハウス

出典:裁判所ホームページ( 平成14年(ワ)第1989号:著作権侵害差止等請求事件)

この事件では、裁判所は、積水ハウスの注文住宅は「建築の著作物」に該当せず、サンワホームのモデルハウスの建築等は著作権侵害には当たらないと判断し、積水ハウス側の請求を退けました。

すなわち、著作権法上の「建築の著作物」であるためには、一般住宅のデザインを超えた建築芸術といい得るような創作性を備えたものではなくてはならないが、積水ハウスの注文住宅はそこまでの創作性を備えていないため「建築の著作物」と言えず、著作権自体発生していないとされてしまいました。

このように著作権法で建築物の外観・内装のデザインを保護することも容易ではありません。

 

商標法によるアプローチ

さらに別のアプローチとして、建築物の外観を立体商標として登録する方法もあります。すなわち、商標法では立体物も立体商標として登録可能であり、実際にいくつかの建築物の外観が立体商標として登録されています。

(1)第5272518号
権利者:株式会社ファミリーマート
登録日:2009年10月9日
存続期間満了日:2029年10月9日

(2)第4156472号
権利者:横浜ゴム株式会社
登録日:1998年6月12日
存続期間満了日:2028年6月12日

(3)第5916693号
権利者:カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社
登録日:2017年1月27日
存続期間満了日:2027年1月27日

ただ、建築物の外観が立体商標として登録されるためには、少なくとも、その外観が商標として指定商品や指定役務について識別力を有する必要があります。

この点について、日本の商標審査基準(改訂第14版第1.五.4(2)、八.8及び12)では、店舗の立体的形状のみからなる立体商標は、使用によって識別力を獲得しない限り、原則として識別力を有さず、登録を認めないとしています。

上記の例でみると、(1)第5272518号や(2)第4156472号は建築物の形状に加えて識別力のある看板文字を含むことで、この要件をクリアできていると思われます。また(3)第5916693号は蔦屋の店舗ですが「T」の文字のように見える外観に識別力が認められているものと思われます。

結局、建築物の外観形状について商標登録を受けることができるのは、長年の使用によって指定商品又は指定役務に関する広告として機能する場合に限られ、広告として機能しないような建築物の外観の場合、看板文字などを追加しない限り、登録は認められないことになります。

 

改正意匠法によるアプローチ

これに対して改正意匠法は、新規性および創作性などの要件を満たせば登録によって建築物の外観・内装のデザインに意匠権が発生する権利付与法であり、模倣行為に対しては権利侵害の有無を争点とすればよく、不正競争防止法や著作権法に比べて予見性が高い運用が可能です。

また立体商標とは異なり、改正意匠法では、識別力を獲得していない建築物の新規なデザインを保護でき、さらにはこれまで保護できなかった建築物の内装のデザインをも保護可能です。

このように改正意匠法では、建築物の外観・内装のデザインに関し、これまで十分に保護できなかった領域をカバーすることが可能になりました。

意匠権は模倣を排除するための強力な武器であることはもちろん、店舗の外観や内装のデザインの独自の世界観をPRするためのツールとしても利用できます。

これからブランディングの一環として店舗の外観や内装のデザインに独自な世界観を取り入れていく場合に意匠登録も検討されてはいかがでしょうか。

以上、今回も最後までお読みいただきありがとうございました。

弁理士 中村幸雄


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