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イラストレータと著作権(3)

前回の「イラストレータと著作権(2)」の続きです。

杉本さんはいくつかの資料を参考にデザインを行っていますが、そこに他の著作者の権利が存在しないのであれば著作権法上の問題は生じません。また、たとえ他の著作者の権利が存在していたとしても適法に利用できる場合もあります。

つまり、参考にした資料に他の著作者の権利が存在し、かつ、その利用が著作権や著作者人格権の侵害となる使い方をされた場合に問題が生じることになります。

各資料に関する他の著作者の権利が存在するか

①500年前の西洋の鎧を忠実に再現したレプリカの写真

この写真に創作性があるかが問題となりますが、鎧のレプリカのような立体物を撮影した場合、それを平面化する過程で構図、光線、背景等に何らかの独自性が表れることが多く、得られた写真に創作性が認められることが多々あります(スメルゲット事件)。

一般に写真の著作物性の敷居は比較的低く、このレプリカの写真が著作物と認められる可能性は高く、この場合、写真の撮影と同時に杉本さんに著作者の権利が発生することになります。

一方、撮影されたレプリカに他の著作者の権利が存在しているかについても検討が必要。他の著作者の権利が存在している場合、その写真撮影自体が著作権法上問題になるからです。

ここでも創作性の有無が問題。レプリカであっても、オリジナルの鎧の形状、色彩、模様等を変更しているのであれば、その変更に創作性が認められ、著作物と認められる可能性もあります。

しかし、今回のレプリカは500年前の西洋の鎧を忠実に再現したものであり、レプリカの作者に創作性が認められる可能性は低いと言えるでしょう。

また、西洋の鎧は500年前に創作されたものであり、その著作権は少なくとも現時点で存在しません。

以上より、この写真に関して他の著作者の権利が存在する可能性は低いと思われます。

②100年前に描かれた絵画を模して20年前に作成された版画の写真

このような写真の著作物性は、その写真の撮影方法に依存します。すなわち、版画を正面からそのまま忠実に撮影したような場合には創作性は認められず、著作者の権利は発生しません(版画辞典事件)。一方、撮影された版画の角度、背景、光の陰影等に創作性が認められるのであれば、その写真に杉本さんの著作者の権利が発生します。

また、この版画は20年前に作成されたものであり、版画自体に他の著作者の権利が発生していた場合、それを撮影することは複製権や翻案権の侵害となります。

ここでも問題になるのが絵画を模して作成された版画の創作性。まるでコピーのように絵画を忠実に再現した版画であれば創作性はなく、版画自体に著作者の権利は発生していません。一方、版画制作の過程で色彩、タッチ、構図等に変更が加えられていれば、この版画は二次的著作物であり、他の著作者の権利が存在する可能性はあります。

さらに絵画の著作者の権利も考慮する必要があります。この絵画の著作者の実名が明らかになっている場合、その著作権は著作者の死後70年間存続します。100年前に絵画が描かれたとしても、それから60年後に著作者が死亡したような場合にはその著作権はまだ存続しています。また著作者の死後であっても、著作者の意を害するような改変は認められません。

以上より、版画が絵画の単なる複製でない場合には当該版画に他の著作者の権利が発生している可能性があります。また絵画の著作者が死亡した年代によっては絵画の著作者の権利が存在している可能性もあります。

③展示会場の外観写真

この写真には他の著作者の著作者の権利が存在します。

また撮影対象の展示会場の建物が著作物であるかはその外観の創作性に依存。建築物の著作物性の敷居は比較的高く、一般の建物のデザインを超えた建築芸術といい得るような創作性が要求されます(積水ハウス高級注文住宅グルニエ・ダイン事件)。

すなわち、展示会場の建物が建築芸術といい得るようなものであれば建物の著作者の権利が存在するが、一般の建物の創作性を超えない程度であれば展示会場の建物に著作権は存在しないことになります。

④展示会場内部の写真

この写真にも他の著作者の著作者の権利が存在。

また、この写真の片隅には土壁の作品が写り込んでいますが、それが壁画や芸術作品と同視し得る程度の創作性を備えたものであれば、その土壁にも他の著作者の権利が存在します。

⑤古代エジプトの王冠の写真

この写真にも他の著作者の著作者の権利が存在しますが、王冠自体の著作権は少なくとも現時点で存在しません。

⑥グーグル(登録商標)のSTREET VIEW(登録商標)でトルコの遺跡の写真

この写真にも他の著作者の著作者の権利が存在。

 

各資料の利用が著作権や著作者人格権の侵害となるか

杉本さんのデザイン案には以下が組み込まれています。

①の鎧のレプリカの写真の関節部分のトレース画

②の版画写真の一部

③の展示会場の外観写真

④の展示会場内部の写真

⑤の王冠の写真の一部

⑥の遺跡の写真の一部

 

①の鎧の写真の関節部分のトレース画については、この写真の著作者は杉本さん自身であり、このレプリカに他の著作者の権利が発生している可能性は低い。さらに関節部分の形状に創作性があるとも考えにくい。そのため、著作権法上の問題となる可能性は低いといえます。

②の版画写真の一部については、仮に版画自体に創作性がなく、かつ、絵画の著作権が消滅しているのであれば著作権の問題はありません。

しかし、絵画の著作者の死後においても、絵画の著作者が存しているとしたならばその著作者人格権の侵害となるべき行為は禁じられています。ここで、版画写真の一部は、その元となった絵画の一部のみを複製したものであり、絵画の著作者が生きていれば同一性保持権の侵害となり得ます。

さらに、版画自体に創作性があれば版画の著作者の権利を侵害する可能性があり、絵画の著作権が消滅していないのであれば複製権や複製権などの侵害の可能性もあり。

③の展示会場の外観写真については、写真の著作権者および著作者の承諾を受ける必要があります。

一方、展示会場の建物のデザインについては、その創作性の有無にかかわらず、デザイン画に組み込むことができるため(著作権法46条)、建物のデザイナーの承諾は不要。

④の展示会場内部の写真についても、写真の著作権者および著作者の承諾を受ける必要があります。

写真の片隅に写り込んだ土壁の作品については、その作品に創作性がないのであれば、その作品に関する著作権上の問題はないため、土壁の著作権者および著作者の承諾は不要。

土壁の作品に創作性がある場合であっても、その土壁の作品が、写真の撮影の対象とする事物から分離することが困難であり、軽微な構成部分であり、その作品の著作権者の利益を不当に害しないのであれば利用可能であるため(同法30条の2)、土壁の著作権者および著作者の承諾は不要。

一方、土壁の作品に創作性があり、著作権法30条2の適用も受けられないのであれば、土壁の著作権者および著作者の承諾も必要となります。

⑤の王冠の写真の一部についても、写真の著作権者および著作者の承諾を受ける必要があります。

⑥の遺跡の写真の一部の使用については、グーグル社の利用規約やガイドラインに従う必要があります。

https://www.google.com/intl/ja_US/help/terms_maps/

https://www.google.com/permissions/geoguidelines/

 

以上、最後までお読みいただき、ありがとうございました。

中村幸雄


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