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イラストレータと著作権(2)

前回の「イラストレータと著作権(1)」の続きです

今回のケースでは杉本さんは自らデザインを創作しています。このデザインには杉本さんの個性が表れており、その部分について杉本さんは真の創作者。

しかし、杉本さんは創作過程で多くの資料を参考にしており、デザインには参考にされた資料の特徴も表れています。そのため、参考にした資料の著作者の権利を検討する必要もあります。今回はこれらに関連する著作者の権利の全体像を述べます。

「著作物」が創作されると、何ら手続きを行うことなく、その創作者は著作者となり、著作者には著作者人格権および著作権といった「著作者の権利」が発生します。

一方、何らかが作成されたとしても、それが「著作物」といえないのであれば「著作者の権利」は発生しません。

そのため、著作権問題において「著作物」であるか否かということは極めて重要。

≪著作物≫
著作権法では、「著作物」とは「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と定義されています(著作権法2条1項1号)。

すなわち「著作物」であるためには、(1)創作性があること、(2)表現したものであること、(3)文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属すること、という3つの条件を満たさなければならず、これらの何れかを欠いた場合には「著作者の権利」は発生しません。

(1)創作性があること
高い独創性までは要求されませんが、「思想又は感情」の表現に著作者の個性が何らかの形で表れていなければ創作性は認められません(当落予想表事件)。

幼児が自由に描いた絵であっても、その幼児の個性が表れているのであれば創作性が認められます。一方、本物のリンゴを忠実に複製した食品サンプルの創作性はほとんど認められないでしょう。本物に忠実であるほど創作者の個性が表現される余地がないからです。上手・下手は創作性とは直接関係しません。

写真は現実をそのまま映し出すものですが、背景や被写体の選択、構図、光の当て方、シャッター速度等の撮影方法に撮影者の個性が表現されている場合には創作性が認められます。一方、平面的な撮影対象を正面からそのまま忠実に撮影したような場合には創作性はほとんど認められません(版画辞典事件)。

(2)表現したものであること
外部に表現されていないものは「著作物」ではなく、例えば、アイデアや作風といった抽象的なものは「著作物」ではありません(アンコウ行灯事件)。

(3)文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属すること
美術工芸品(刀や鎧等の観賞用の一品制作品)は美術に含まれます(著作権法2条2項)。エンジンなどの技術的なものはこの範囲に含まれませんが、コンピュータプログラムや設計図などは学術の範囲に属します。

≪二次的著作物≫
既存の著作物を利用して新たな著作物が創作される場合があり、このような著作物を「二次的著作物」と呼び、著作権法では「著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案することにより創作した著作物」と定義されています(2条1項11号)。

「二次的著作物」であるためには、既存の著作物(原著作物)を変形等することで新たな創作性が付加される必要があり、創作性が付加されていない著作物は原著作物の複製や翻案に過ぎません。

「二次的著作物」も「著作物」であることに変わりなく、「二次的著作物」の著作者にも著作者の権利が発生します。しかし、「二次的著作物」の著作者に対しても原著作物の著作者の権利は及び、「二次的著作物」の著作者だからといって、直ちに原著作物を自由に利用できるわけではありません。

「著作物」が創作された場合、その著作者に著作者人格権および著作権が発生します。

≪著作者人格権≫
著作者人格権は、著作者の人格的利益の保護を目的とするものであり、公表権(18条)、氏名表示権(19条)、同一性保持権(20条)、名誉・声望保持権(113条6項)の4つがあります。著作者人格権は譲渡することができず(59条)、著作者が死亡することで消滅しますが、著作者の死後も著作者人格権の侵害となるような行為は原則的に禁止されています(60条)

≪著作権≫
著作権は、財産的な権利であり、(1)著作物を複製する権利(複製権)、(2)著作物を公衆に伝える権利(上演権・演奏権、上映権、公衆送信権・公衆伝達権、口述権、展示権)、(3)著作物の原作品や複製物を公衆に伝える権利(譲渡権、貸与権、頒布権)、(4)二次的著作物に関する権利に大別されます(翻訳権・翻案権、二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)(同法21条~28条)。著作権は、著作者の死後(無名、変名、団体名義の著作物の著作権は公表後)70年間存続します(同法51~54条)。

≪同一性保持権、複製権、翻案権の関係≫
他者の著作物を許諾なく変更・削除等を行うことは同一性保持権によって禁止されています。

他者の著作物を許諾なく複製すれば同一性保持権の問題はありませんが、複製権の問題が生じます。完全に同一のものを複製する場合だけではなく、多少変更されていても実質的に同一性があれば複製権の侵害になります(きたむら建築設計事件)。この場合にはさらに同一性保持権の問題も生じます。

ただし、他者の著作物のうち著作者の個性が表れていない部分、すなわち、誰が作っても同じになる部分のみを複製したからといって直ちに複製権の侵害となるわけではありません。

他者の著作物からさらに離れ、その二次的著作物となった場合には翻案権および同一性保持権の問題が生じます。

さらに他者の著作物から離れ、他者の著作物から完全に独立した著作物を複製等する場合には、同一性保持権、複製権、翻案権のいずれの問題も生じません。

≪著作権の制限≫
承諾を受けることなく、他人の著作物を自由に利用できる場合があり(30条~47条の7)、今回のケースに関連するものとしては30条の2(付随対象著作物の利用)および46条(公開の美術の著作物等の利用)があります。

次回は、上記の内容を杉本さんのケースに当てはめてみます(次回に続く)。

以上、最後までお読みいただき、ありがとうございました。

弁理士 中村幸雄


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